文章構成の「部品」の見つけ方:必要な要素を特定・整理する実践テクニック
文章構成に苦手意識をお持ちの方は少なくありません。特にビジネスシーンにおいては、「何を伝えたいのかがうまくまとまらない」「構成に時間がかかりすぎてしまう」「書いてみたものの、どうも説得力に欠ける」といった悩みを抱えている方もいらっしゃるでしょう。
これらの課題は、文章を組み立てる「構成」の段階でつまづいていることが原因の一つです。そして、構成がうまくいかない根本的な理由として、文章に必要な「部品(要素)」が明確になっていない、あるいは揃っていないまま組み立てようとしている可能性が考えられます。
この記事では、まるで何かを組み立てる前に必要な部品をリストアップするように、文章構成に必要な「要素」を特定・整理する具体的な方法を解説します。このステップを踏むことで、構成作業が格段にスムーズになり、より効率的で、そして何より「伝わる」「説得力のある」文章を作成できるようになるでしょう。
なぜ「要素特定」が文章構成の要となるのか
文章構成と聞くと、いきなり「結論から書く」「時系列で並べる」といった文章の型や並べ方を考え始める方が多いかもしれません。しかし、これらの型は、構成の「部品」が揃っているからこそ効果を発揮するものです。
例えば、家を建てる時に設計図(構成)があったとしても、必要な木材や釘、窓などの「部品」が手元になければ、当然家は建ちません。文章も同様です。伝えたい主張、それを裏付ける根拠、具体的な事例、読み手に取ってほしい行動といった「要素」が明確になっていないと、いくら頭の中で構成を考えても、具体的に書き進めることが難しくなります。
必要な要素が不明確なままだと、以下のような問題が起こりやすくなります。
- 思考の迷走: 何を書くべきか、何から考え始めるべきかが分からず、漠然とした不安の中で時間が過ぎていきます。
- 情報の過不足: 必要な情報が漏れていたり、逆に不要な情報が多く含まれていたりして、文章全体が分かりにくくなります。
- 論理の飛躍: 主張と根拠が結びついていない、なぜそう言えるのかの説明が足りないなど、論理に穴が生まれて説得力が低下します。
- 修正コストの増大: 書き終えてから要素の不足や構成の不備に気づき、大幅な修正が必要になります。
これらの問題を避けるためには、書き始める前に文章の「部品」である「必要な要素」をしっかりと特定し、整理するプロセスが不可欠なのです。
文章構成に必要な「要素」を特定する3つのステップ
それでは、具体的にどのように文章の「要素」を特定すれば良いのでしょうか。ここでは、すぐに実践できる3つのステップをご紹介します。
ステップ1:文章の「目的」と「読み手」を再確認する
このステップは、他の構成に関する記事でも触れられることが多いですが、要素特定の出発点として極めて重要です。
- 目的: その文章を書くことで、何を達成したいのかを明確にします。「情報を伝達する」「相手に提案を承認してもらう」「問題を報告し、今後の対策を共有する」など、具体的な目標を設定します。
- 読み手: 誰がその文章を読むのかを考えます。相手の役職、知識レベル、関心、そしてその文章を読むことで読み手にどうなってほしいのか(知ってほしいのか、理解してほしいのか、行動してほしいのか)を想像します。
この「目的」と「読み手」が定まることで、「その目的を達成するために、読み手はどのような情報や説明を必要とするか」という視点が生まれ、必要な要素を洗い出すための方向性が定まります。
ステップ2:考えられる「要素」を全て書き出す(ブレインストーミング)
ステップ1で定めた目的と読み手を踏まえ、「この文章に必要な情報や伝えるべきことは何だろうか?」と考え、思いつく限り全ての要素を書き出します。この段階では、質や順序は気にせず、量と網羅性を重視してください。箇条書きや単語、短いフレーズで構いません。
例えば、社内向けの報告書であれば、「プロジェクト名」「担当者」「期間」「実施内容」「結果(数値含む)」「発生した課題」「課題への対応策」「その結果どうなったか」「今後の見込み」「関連部署への依頼事項」などが要素として考えられます。企画書であれば、「現状の課題」「提案の背景」「提案内容」「提案による効果」「必要なコスト」「スケジュール」「リスク」「実行体制」などが挙げられるでしょう。
この書き出しには、マインドマップや付箋を活用するのも効果的です。思考の連鎖を視覚化したり、後で自由に並べ替えたりしやすくなります。
ステップ3:特定した「要素」を精査・選別し、不足を洗い出す
ステップ2で書き出した要素の中から、ステップ1で設定した「目的」達成のために本当に必要な要素を選び出します。
- 選別: 目的達成に直接関係のない情報、読み手がすでに知っていると思われる情報、本筋から外れる情報は思い切って除外します。
- 精査: 残った要素一つ一つについて、「これは具体的な事実か?」「主張を裏付ける根拠は十分か?」「読み手にとって理解しやすい表現か?」などを検討します。抽象的すぎる場合は、より具体的な要素(例:抽象的な「売上増加」→具体的な「前年同月比10%増の売上」)に分解します。
- 不足の洗い出し: 選別・精査した要素を見渡し、「この情報だけでは、読み手は納得しないのではないか?」「読み手が知りたいであろう情報が抜けていないか?」「目的達成のために足りない要素はないか?」という視点で不足している要素を特定します。例えば、主張に対して根拠が弱い、解決策に対するリスクや懸念点が考慮されていない、次のアクションが不明確、といった点です。不足が見つかったら、その要素を改めて特定・追加します。
このステップを経ることで、文章に必要な「コアな部品」が明確になり、同時にどの部品が足りないのかも把握できます。
特定・整理した「要素」から文章を組み立てる方法
必要な要素が特定できたら、いよいよこれらの「部品」を使って文章を組み立てていきます。要素を効果的に配置するための基本的な考え方をご紹介します。
要素のグループ化と関連付け
特定した要素を、内容や意味のまとまりでグループ化します。例えば、「課題に関する要素」「提案内容に関する要素」「効果に関する要素」のように分類します。次に、これらのグループ間の論理的な繋がりを考えます。「この課題があるから、この提案が必要で、その結果としてこの効果が期待できる」といった因果関係や順序を意識します。
構成の「型」に要素を配置する
グループ化・関連付けした要素を、目的に合った文章の「型(フレームワーク)」に当てはめてみることで、構成の骨子が見えてきます。ビジネス文書でよく使われる型には以下のようなものがあります。
- PREP法: Point(結論)→Reason(理由)→Example(具体例)→Point(再度結論)
- SDS法: Summary(概要)→Details(詳細)→Summary(まとめ)
- 起承転結: 物語などに用いられることが多いですが、ビジネス文書でも応用可能です。
これらの型は、要素を並べる際の「棚」のようなものです。特定・整理した要素をどの棚に入れるかを考えることで、自然な流れが生まれます。例えば、PREP法を使うなら、「結論」の棚には目的や最も伝えたい主張に関する要素、「理由」の棚にはその根拠となるデータや事実に関する要素、「具体例」の棚には実際の事例や詳細に関する要素を配置します。
視覚ツールを使った配置と調整
要素を記載した付箋を壁やホワイトボードに貼ったり、アウトライナーツールを使ったりして、特定・整理した要素を視覚的に並べ替えてみるのも有効です。要素間の繋がりを線で結んでみたり、重要度に応じて配置を調整したりすることで、より論理的で分かりやすい構成を探求できます。
このプロセスがもたらす効率化と説得力
文章構成に必要な要素を事前に特定・整理するこのプロセスは、一見遠回りに見えるかもしれません。しかし、実際には以下のような効果をもたらし、結果的に文章作成全体の効率化と質向上に繋がります。
- 書き始めの加速: 何を書くべきかが明確になっているため、白紙を前に悩む時間が減り、スムーズに書き始めることができます。
- 手戻りの削減: 必要な要素が揃っているか事前に確認できるため、後から大幅な加筆や修正をする必要が少なくなります。
- 論理的な文章: 要素間の関係性が整理されているため、主張と根拠が明確に結びつき、論理の飛躍がない説得力のある文章になります。
- 効率的な情報伝達: 過不足なく必要な情報が盛り込まれるため、読み手は短時間で内容を正確に理解できます。
まとめ:要素特定・整理を習慣化して構成の苦手意識を克服する
文章構成の苦手意識を克服し、効率的で伝わる文章を書くためには、「文章の『部品』である必要な要素を特定し、整理する」という事前のステップが非常に重要です。
まずは文章の「目的」と「読み手」を明確にし、次に目的達成に必要な「要素」を思いつく限り全て書き出します。そして、その中から本当に必要な要素を選び出し、不足がないかを確認します。最後に、特定・整理した要素をグループ化し、適切な「型」に配置することで、文章の構成を効率的に組み立てることができます。
この「要素特定→整理→構成」という流れを日々の文章作成に取り入れることで、構成に費やす時間を短縮しつつ、読み手に意図が正確に伝わる、説得力のあるビジネス文書を作成できるようになるでしょう。ぜひ、次の文章作成から実践してみてください。